プレス絞り加工を、板材から中空立体形状を成形する加工法の総称としてとらえ、平易かつ具体的に解説。これから絞り加工を勉強する初心者には入門書として、また経験者には事典もしくはプレス絞り加工の資料集として利用出来るように編集してある.。
はじめに
本来、「絞り」は、量や範囲を小さくするときに使われる言葉である。そのため、狭義のプレス絞り加工は、プレスと金型を用いて素板を周方向に縮ませながら側壁部を形成し、継ぎ目のない中空立体形状を成形するいわゆる深絞り加工を指す。しかし、実際のプレス成形品を見ると材料が薄く張出すことによって側壁部を作る張出し変形や、周方向に伸ばされながら曲げ変形を受けて側壁部を作る伸びフランジ変形をも同時に受けていることが多い。そのため、プレス絞り加工は、深絞り加工、張出し加工、伸びフランジ加工を含めて板材を中空立体形状に成形する加工法の総称として呼ばれることが多い。
本書は、プレス絞り加工を板材から中空立体形状に成形する加工法の総称として捉え、これから絞り加工を勉強しようとしている初級者にとっては入門書として、中級・上級者にとってはできるだけ多くのデータを収録した事典、もしくは資料集にもなりうる技術書を目標に編集した。
内容的にも、単なる技術書にとどまることのないよう、円筒絞りの初等解析、すべり線場理論による角筒絞りの解析、スクライブドサークルテストによる成形限界線図の求め方など、塑性力学的分野にも多くのページ数を割り当てた。また、各種加工法の影響因子の解説はもちろんのこと、最近話題になっている金型の簡略化や成形限界の向上が図られる特殊成形法に関しても十分なページ数を割いている。おそらく実務的なデータを多く用いてプレス絞り加工をわかりやすく解説した書物としては、他に例を見ないものになったと確信している。
これからプレス絞り加工を勉強しようとする初級者はもちろんのこと、改善を迫られたり、トラブル対策に頭を悩ましているプレス絞り加工技術者にとって、本書がお役に立てれば誠に幸いである。
最後に本書の執筆に際して、これまでに発表された多くの著書や論文を参考にさせて頂いた。ここに引用させて頂いた方々に心から感謝の意を表します。
002年12月 著者
基礎から学ぶ実践プレス加工シリーズプレス絞り加工―目次
はじめに・i
編集委員会・ii
第1章 プレス成形の分類
・1
第2章 プレス成形における破断と対策
2.1 破断の分類・3
2.2 スクライブドサークルテスト・5
2.3 成形限界線図(FLD)・6
2.4 成形限界線図の例・7
2.5 成形限界のひずみ経路依存性・8
2.6 破断回避の対策技術・10
第3章 円筒絞り
3.1 円筒絞りの概要・11
3.1.1 円筒絞り容器の各部の名称 11
3.1.2 円筒絞りにおける材料の変形 12
3.1.3 円筒絞りにおける応力の伝達と絞り性の向上策 13
3.1.4 絞り比と絞り率 14
3.1.5 再絞り 15
3.2 絞り加工に影響を及ぼす因子・17
3.2.1 絞り型構造としわ抑え方式 17
3.2.2 しわ抑え力 18
3.2.3 しわ抑えなしの絞り 19
3.2.4 ダイ肩半径 20
3.2.5 パンチ肩半径 23
3.2.6 パンチとダイのクリアランス 24
3.2.7 素板寸法 25
3.2.8 素板の板厚 27
3.2.9 潤滑と金型の表面粗さ 28
3.2.10 温度 29
3.2.11 素板の機械的性質および異方性 30
3.2.12 異方性と耳の形成 33
3.3 円筒絞りの塑性力学解析・35
3.3.1 フランジ部に作用する応力成分 35
3.3.2 フランジ部の応力の計算方法 36
3.3.3 ダイ肩での曲げ変形による応力増加の計算方法 38
3.3.4 パンチ荷重の計算方法 39
3.4 円筒および円錐台絞りの最大パンチ荷重の実験式・40
3.4.1 円筒容器 40
3.4.2 フランジ付き円筒容器 40
3.4.3 フランジ付き円錐台容器および球殻容器 40
3.5 円錐台絞りの最大成形深さ・41
第4章 角筒および異形絞り
4.1 角筒絞りにおける材料の変形・43
4.2 すべり線場理論による角筒絞りの解析・44
4.2.1 すべり線場解析における基礎仮定 44
4.2.2 すべり線場の作図と主応力線格子の幾何学的特性 45
4.2.3 フランジ部の速度場の計算 46
4.3 均一深さの角筒容器を得るための素板形状・48
4.3.1 均一深さの正四角筒容器を得るための無次元化素板寸法 48
4.3.2 均一深さの正四角筒容器を得るための素板形状 49
4.3.3 均一深さの長方形筒容器を得るための素板形状 50
4.3.4 凹輪郭を有する容器の素板形状 51
4.3.5 オイルパン形容器の素板形状 52
4.4 角筒絞りの成形性を支配する因子・54
4.4.1 壁割れ 54
4.4.2 形状比 59
4.4.3 長方形筒容器の水平断面形状 60
4.4.4 しわ抑え面圧分布―フレキシブルしわ抑え― 61
4.4.5 型当りの調整 63
4.4.6 潤滑 64
4.5 角筒絞りの最大パンチ荷重の実験式・66
4.6 角錐台絞りの最大成形深さ・68
4.7 ビード技術・69
4.7.1 ビードの種類 69
4.7.2 ビードの効果 70
第5章 張出し加工
5.1 変形様式と種類・73
5.2 ひずみ分布・74
5.3 張出し加工条件と成形限界・75
5.3.1 潤滑の影響 75
5.3.2 横断面形状の影響 76
5.4 材料特性と成形限界・77
5.5 張出し限界深さの推定法・78
5.6 大曲面張出しと形状凍結性・79
5.6.1 成形条件の影響 79
5.6.2 材料特性の影響 80
5.7 管・容器の各種バルジ加工・81
5.7.1 各種の加工法 81
5.7.2 加工力 82
5.8 張出し限界を向上させる特殊成形法・83
5.8.1 複式液圧バルジ成形法 83
5.8.2 対向液圧張出し成形法 84
5.8.3 温間張出し成形法 85
第6章 伸びフランジ加工
6.1 伸びフランジ加工の種類・87
6.2 変形の状態と破断の種類・88
6.2.1 均一輪郭形状 88
6.2.2 不均一輪郭形状 89
6.3 板縁加工条件と成形限界・90
6.3.1 切削と打抜き 90
6.3.2 打抜き加工条件 92
6.4 穴広げ加工条件と穴広がり限界・94
6.4.1 パンチ頭部形状とかえり位置 94
6.4.2 素板の寸法効果 95
6.5 材料特性と穴広がり限界・96
6.6 加工温度と穴広がり限界・98
6.7 せん断縁の変形能向上対策・99
6.7.1 かえり取り 99
6.7.2 焼なまし 99
6.7.3 削り抜き法 100
6.7.4 コイニング法と逆再穴広げ法 101
6.8 限界バーリング高さの推定法・103
6.9 バーリング高さの向上法・104
第7章 特殊深絞り加工法
7.1 対向液圧深絞り法・105
7.1.1 成形方式 105
7.1.2 成形手順 106
7.1.3 成形原理と特徴 107
7.1.4 創成液圧値とその挙動 108
7.1.5 液圧値と成形限界 109
7.1.6 しわ抑え力と成形限界 110
7.1.7 フランジ部の潤滑と成形限界 111
7.1.8 工具表面粗さと成形限界 112
7.1.9 しわ抑え板肩半径と成形限界 113
7.1.10 パンチ肩半径と成形限界 114
7.1.11 曲辺部半径と正四角筒絞り限界 115
7.1.12 破断の種類 116
7.1.13 破断対策 117
7.1.14 成形品の品質 118
7.1.15 異形形状絞りの注意点 119
7.1.16 周液圧深絞り法 120
7.2 ゴム圧成形法・122
7.2.1 ゴム圧深絞り法 122
7.2.2 摩擦援用深絞り法 123
7.3 局部温度制御成形法・124
7.3.1 被成形材の温度依存性 124
7.3.2 周辺加熱深絞り法 125
7.3.3 周辺加熱深絞り法の成形温度と成形限界 126
7.3.4 局部熱処理板を用いる深絞り法 127
7.3.5 温間対向液圧深絞り法 129
7.4 超音波振動深絞り法・130
7.5 ストレッチドロー成形法・131
7.6 しわ抑え制御深絞り法・132
7.7 テーラードブランクの成形・133
7.8 深い容器の深絞り法・134
7.9 インクリメンタルフォーミング・135
付録 金属材料引張試験法
A.1 応力-ひずみ曲線・137
A.2 引張試験から得られる材料特性値・138
A.3 引張試験片の規格・140
A.4 n値の測定法・140
A.5 r値の測定法・141
索 引・143