サーボプレス加工機は、サーボ機構によって加工時の位置・速度・エネルギーを自在かつ高精度に制御し、高生産性、低騒音、省エネなど、従来のメカ式プレスにはない特徴をもち、高付加価値加工を可能にする。本書はサーボプレスの活用を解説する初の成書である。
目 次
はじめに
1 サーボプレスの基礎
1.1 サーボプレスの原理.構造
1.1.1 サーボプレスの構造と定義
1.1.2 サーボプレスを動力源としての使い 方の種類
1.1.3 サーボモータの制御とプレス機械の作動
1.1.4 サーボモータの制御とプレス機械の静的精度の関係
1.1.5 サーボモータとプレス機械の関係
1.1.6 サーボモータの種類と駆動アンプ装置
1.1.7 プレス加工とサーボプレス機械
1.1.8 サーボプレス駆動とサーボモータ出力の関係
1.1.9 サーボモータトルクの増幅方法
1.1.10 サーボプレス機械の構造と動的精度の関係
1.1.11 サーボプレス機械の主な仕様の注意点
1.1.12 ACサーボモータの例
1.1.13 サーボプレス機械と力の増幅
1.1.14 サーボプレス機械の大型化
1.1.15 サーボプレス機械の駆動方法の特徴
1.2 サーボプレスの種類
1.2.1 サーボプレス種類の概要
1.2.2 サーボプレス構造の種類
1.3 サーボプレスの活用技術
1.3.1 板材成形
1.3.2 せん断加工
1.3.3 複動加工
1.3.4 打抜き騒音の低減
1.4 サーボプレスの自動化
1.4.1 タンデムラインの自動化
1.4.2 サーボトランスファプレスの自動化
2 サーボプレスの使い方
2.1 スライドモーションの設計
2.1.1 サーボプレス活用戦略の明確化
2.1.2 サーボプレスの主な機能
2.1.3 スライドモーションの例
2.1.4 スライドモーションの設計項目
2.1.5 スライドモーション素案
2.2 サーボプレスの精度と動的特性
2.2.1 把握しておきたいサーボプレス性能項目
2.2.2 構造部の静的精度
2.2.3 構造部の剛性
2.2.4 スライド位置決め再現精度
2.2.5 スライド位置の経時変化
2.2.6 負荷・除荷時のスライド位置補正機能
2.2.7 スライド速度に関する精度
2.2.8 加工荷重に関する精度
2.3 サーボプレス加工の評価
2.3.1 利用技術向上のためのPDCAサイクル
2.3.2 サーボプレス加工の評価検証項目と測定機器
2.3.3 成形部の評価手法例
2.4 スライドモーションプロファイルの見方
2.4.1 スライドモーションプロファイルとは
2.4.2 打抜きモーションプロファイルの解読
2.4.3 打抜きモーション設計時の着眼点
2.4.4 鍛圧モーションプロファイルの解読の意義
2.4.5 鍛圧モーションの比較
2.4.6 各種鍛圧モーションの比較
2.4.7 鍛圧加工における潤滑条件の影響
2.4.8 鍛圧加工におけるプレス機械剛性面の挙動
2.5 サーボプレスの特性を活かす金型
2.5.1 小物加工のための金型
2.5.2 金型設計のポイント
2.5.3 サーボプレス加工の多様化
3 サーボプレスの安全と点検
3.1 サーボプレスの安全
3.1.1 サーボプレスの機構と安全
3.1.2 安全確保の水準
3.1.3 安全アセスメント
3.1.4 表示と情報開示の必要性
3.1.5 サーボプレスの安全確保
3.2 サーボプレスの点検・定期自主検査
3.2.1 サーボプレス機械と停止機能
3.2.2 日常点検と自主点検
4 サーボプレスの特性が活きる材料
4.1 高強度鋼板の種類と特性
4.2 サーボプレスの特性を活かすために注目すべき材料特性
4.2.1 材料強度のひずみ速度依存性
4.2.2 材料延性のひずみ速度依存性
4.2.3 材料強度の温度依存性
4.2.4 材料延性の温度依存性
4.2.5 加工誘起マルテンサイト変態
4.2.6 材料のバウシンガー効果とマイクロ塑性変形
4.2.7 材料の応力緩和特性
4.2.8 トライボロジー特性
5 サーボプレスの特性を活かした加工事例
マグネシウム合金板の加工
ハイテン材のハット曲げ成形
抜き騒音の低減
生産性および型寿命の向上
SUS304の低速度・低発熱絞り加工
張出し異形絞りの工程短縮
索 引
はじめに
プレス工場にサーボプレス機械が戦力として活躍している。機械プレスがサーボ化されたとして脚光を浴び「サーボ」が先行していた時期を過ぎ、地に足をつけた実践生産機となった。
1970年代に入って工業用ロボット(Industrial Robotを直訳していた)が米国から入ってきたとき、万能ハンドリング装置として飛びつかれたが、ロボットの機能や特性がだんだん分かってくるにつれて熱がさめ、「ロボットとはこんなことしかできない」とブームが去り、その後の発展はご存じのとおりである。サーボプレス機械も1990年代に登場した直後は、NC工作機械並みの高精度運転が可能、プレス加工の救世主、というほど過剰な期待が先行した。
それから10年近く経た2000年頃には、プレス機械メーカーも「サーボプレス機械とは」という各社独自に定義付けが行われ、それに合致した運転制御ソフトウエアもノウハウが培われ、巨大な質量をもつプレス機械をサーボ化することができた。しかし、その時点でも機械プレスをNCで動かすことに主眼が置かれ、いかに良い成形を行うかをターゲットにしておらず、いろいろなリンクモーション動作をさせられるソフトであった。その原因の一つは、プレス加工を経験していないソフトウエア開発技術者がNC工作機械のソフトを使ってプレスを動かしそうとしたことであり、今一つは、工作機械を動かすだけの小出力サーボモータしかなかったからである。
種々の開発が進み、飛躍的にサーボプレス機械の出荷台数が伸びた今日、それまでサーボプレスの生産国は日本だけであったのが、今では、当初サーボ化に否定的であった欧州のメーカーも参入しているし、日本の近隣諸国でも作られ日本国際工作機械見本市に出展されるまでになった。
こうして、作る側、使う側にサーボプレス機械の要綱が定められるるようになった現在、サーボプレス機械は第二世代に入ったといえる。プレス加工に適したソフトウエアの開発と、プレス機械という重量物をプレス加工に見合った制御が可能な「俊敏で、高トルク」のサーボモータが出現したことが後押しした。しかし、本格的登場から10年も満たない現在では、まだまだサーボプレス機械の特性や、できること、できないことがまだ十分情報として公開されていないため、サーボプレス機械を使いこなしているところは少ないのが現状である。
プレス成形品の欠陥を少なくできる加工、金型の損耗を抑える使い方、サーボプレス機械の特性を引き出せる材料の進歩など、サーボプレス機械を活かす時代が始まった。時代はさらに進み、成形シミュレーション技術が身近になりつつある今、シミュレーション結果をサーボプレス運転制御に活かせるようになりつつある。また、切削加工からプレス加工へという工法転換には、サーボプレス機械の動作モーションが有効であるという事例が多く発表されるようにもなっている。
本書は、こうした状況を踏まえて、サーボプレス機械の特性調査、サーボプレス機械の現状、サーボプレス機械を活かした自動化、サーボプレス機械の特性を活かす材料、サーボプレス機械の特性を活用した金型設計のポイントなど、それぞれの分野に十分な経験を有する著者が執筆している。
本書が、経済環境厳しい時代を、新しいプレス加工で乗り切るために努力している技術関係者諸氏に、サーボプレス機械をよりよく理解していただき、活用いただけることを願っている。
2009年4月吉日
編著者代表 小松 勇